英語を勉強していると、イディオム(Idioms)は避けて通れません。でも正直なところ、「意味だけ覚えよう」とすると、なかなか頭に入りません。
私自身、アメリカで20年以上生活してきましたが、教科書で覚えたイディオムよりも、職場やニュース、テレビ、そして何気ない日常会話で何度も耳にした表現のほうが、ずっと記憶に残っています。
そして、そういう表現を後から調べてみると、「だから、そんな意味になったのか」と納得できるものがたくさんありました。英語のイディオムには、昔の仕事やスポーツ、戦争、宗教、迷信など、その時代の文化や人々の暮らしがそのまま残っています。
今回は、私がアメリカで実際に耳にしたものや、「由来が面白い」と思ったイディオムを25個紹介します。語源には複数の説があるものもありますが、現在もっとも有力とされている説を中心にまとめました。意味だけでなく、その背景まで知ると、英語はもっと面白くなります。
1. a baker’s dozen
意味
「13個」普通の1ダース、つまり12個より1個多いことを表す言い方です。
由来
中世イングランドでは、パンの重さをごまかすと厳しい罰則がありました。パン職人は、販売したパンが規定より軽かった場合に処罰されることを恐れ、12個注文されたら念のため13個入れることがありました。その余分な1個によって、全体の重さが不足するリスクを避けたわけです。そこから、a baker’s dozen は「13個」を意味する表現として定着しました。
例文
The bakery gave me a baker’s dozen, so I got thirteen bagels instead of twelve.
(ベーカリーが13個入れてくれたので、ベーグルを12個ではなく13個もらった。)
AmeriEigo的一言
私はこの表現を、日常会話で何度も聞いたわけではありません。アメリカ人なら意味を知っている人は多いですが、毎日のように使うイディオムでもありません。会話で突然、「I bought a baker’s dozen.」と言われたら、「13個買った」という意味です。
ただし、13という数字を特別ユーモラスに言い換えているというより、パンやベーグル、ドーナツなどに関係する場面で、少し昔ながらの言い方をしている感覚に近いと思います。たとえば、ベーグル屋が12個分の値段で13個入れてくれたときに、店員が、「You got a baker’s dozen.」と言うことはあります。でも、どこのベーカリーでも大々的に宣伝文句として使っている、というほどではありません。
有名な映画の決めぜりふとして広まった表現でもありません。このイディオムの面白さは、使われる頻度よりも、「なぜ12ではなく13なのか」という由来にあります。何百年も前のパン職人が、罰を避けるために余分な1個を入れた。その習慣が、今も英語の中に残っています。こういう話を知ると、単に「baker’s dozenは13個」と暗記するより、ずっと忘れにくくなります。
2. a chip on your shoulder
意味
「不満や恨みをいつまでも引きずっていること」過去の出来事に腹を立てたまま、周囲に対して反発的、攻撃的になっている人にも使います。
由来
19世紀のアメリカでは、木片を肩に乗せて、「取れるものなら取ってみろ」と相手を挑発する行為があったと言われています。誰かがその木片を払い落とせば、それがケンカ開始の合図になります。
そこから、a chip on your shoulder は、「いつでもケンカを始められるような態度を取っている人」や、「過去の不満や恨みを抱え続けている人」を表すようになりました。
例文
Ever since my coworker was publicly humiliated by his boss, he’s had a chip on his shoulder.
(私の同僚は、上司にみんなの前で恥をかかされて以来、ずっとそのことを根に持っている。)
AmeriEigo的一言
実は、私の職場にも、この表現がぴったり当てはまる人がいます。以前、同僚が上司から人前でひどく見下されるような扱いを受けました。それ以来、彼はその上司のことをずっと根に持っています。しかも、不満の対象はその上司だけではありません。会社全体に対しても、「どうせ自分は正当に評価されない」「管理職は信用できない」という態度を取るようになりました。こういう状態を表すのが、「He has a chip on his shoulder.」です。
単に「怒っている」という意味ではありません。過去に受けた扱いを今も引きずり、それが現在の態度にまで表れている。そこまで含んでいるのが、この表現のポイントです。なお、英語の文章としては、
Ever since my coworker was demeaned by his boss, he’s had a chip on his shoulder.
でも意味は通じます。ただ、実際の状況が「人前で恥をかかされた」のであれば、
Ever since my coworker was publicly humiliated by his boss, he’s had a chip on his shoulder.
のほうが、何が起きたのかが具体的に伝わります。demean は「人の尊厳や価値を下げるような扱いをする」という意味なので、少し硬く、書き言葉に近い印象があります。職場の実話として話すなら、humiliated や treated unfairly のほうが自然な場合が多いです。
3. a far cry from
意味
「〜とは大違い」「〜には程遠い」期待していたものや、比較の基準となるものと、大きく異なるときに使います。
由来
この表現は17世紀ごろから使われていると言われています。もともとの far cry は、「遠くから聞こえる叫び声」という意味でした。叫び声が遠くから聞こえるということは、それだけ距離が離れているということです。そこから、「距離が大きく離れている」というイメージが、物事の違いを表す比喩へと発展しました。つまり、a far cry from は、二つのものが「かなり離れている」「まるで違う」という感覚を表すイディオムです。
例文
This apartment is a far cry from the tiny studio I lived in ten years ago.
(このアパートは、10年前に住んでいた狭いワンルームとは大違いだ。)
The movie was a far cry from the original novel.
(その映画は原作小説とはかなり違っていた。)
AmeriEigo的一言
私がアメリカへ来て、日本との違いを実感したことの一つが、トイレです。日本では、駅、コンビニ、デパートなど、少し歩けばどこかにトイレがあります。もちろん地域差はありますが、少なくとも都市部では、「どこにもトイレがない」という状況はそれほど多くありません。
ところが、アメリカの大都市では事情が違います。レストランで食事をすればトイレを使えます。でも、何も注文せずに店へ入って、Can I use your restroom?と頼んでも、断られることがあります。日本でも、レストランへ入ってトイレだけ借りるのは普通ではありません。ただ、日本にはコンビニや駅がそこかしこにあります。アメリカには、その代わりになる場所が少ないのです。
だから外出中に困ったとき、私がよく思い浮かべたのがStarbucksでした。コーヒーを買えば、店内のトイレを利用できる店舗が多かったからです。Starbucksがあれほど広がった理由がトイレだけだとは思いません。コーヒー、Wi-Fi、待ち合わせ場所、少し時間をつぶせる店内空間など、いろいろな理由があります。それでも、都市で生活する側から見ると、「困ったらStarbucksへ行けば何とかなる」という安心感は確かにありました。
ところがコロナ禍になると、店内に入れない店舗が増えました。テイクアウトだけになったり、座席やトイレが使えなくなったり、店舗そのものが閉店したりしました。人が街を歩かなくなり、Starbucksを含め、都市部の店舗網も以前とは変わったように感じます。それまで「いざとなったら、あそこへ行けばいい」と思っていた場所が使えなくなり、改めてアメリカの公共トイレの少なさを実感しました。
この違いを英語で表すなら、
American cities are a far cry from Japan when it comes to public restrooms.
(公共トイレ事情に関して言えば、アメリカの都市は日本とは大違いです。)がしっくりきます。a far cry from は、必ずしも「悪い」という意味ではありません。ただ、今回のトイレ事情に関しては、私は日本のほうが圧倒的に便利だと思います。同じ先進国でも、日常生活の基本的な部分がここまで違う。そういうギャップを表すのに、a far cry from はとても使いやすい表現です。
4. kickback
意味
「裏金」「賄賂」「不正なリベート」契約や仕事を回してもらった見返りとして、秘密裏に渡される金銭を指します。
由来
kick back は、もともと「蹴り返す」という意味の動詞です。そこから19世紀後半のアメリカで、「受け取った金の一部を誰かに戻す」という意味でも使われるようになりました。
たとえば、ある業者が100万ドルの契約を受注したとします。その契約を取らせてくれた担当者に、お礼として数万ドルをこっそり返す。この「戻されるお金」が kickback です。通常の値引きや販売奨励金とは違い、表に出せない不正な金銭であることがポイントです。
例文
The official was accused of taking kickbacks from construction companies.
(その役人は、建設会社から裏金を受け取ったとして告発された。)
The company fired an employee for accepting kickbacks from a supplier.
(その会社は、仕入れ先から裏金を受け取っていた社員を解雇した。)
AmeriEigo的一言
この言葉は、日常会話よりもニュースで見聞きすることのほうが圧倒的に多い印象です。特によく出てくるのが、政治、公共工事、医療業界の不正です。
たとえば、医師や医療関係者が特定の業者やサービスへ患者を紹介し、その見返りとして金銭を受け取る。あるいは、建設会社が公共工事を受注するために、決定権を持つ人へ裏で金を渡す。こういう話で kickback が使われます。
アメリカでは、Medicareを利用した不正請求や医療詐欺のニュースも多く、その中で kickback scheme という表現を目にすることがあります。これは単なる「紹介料」ではありません。紹介や契約の見返りとして、違法に金が動いていたという意味です。
以前、Elon MuskがDonald Trumpの選挙活動を支援した際、有権者を対象に金銭を配るようなキャンペーンが話題になりました。しかし、あのような行為を通常 kickback とは呼びません。選挙に関連した賞金、抽選、インセンティブ、政治活動への資金提供が合法か違法かという議論と、kickback は別の話です。kickback には、「何かをしてもらった見返りとして、関係者へ裏で金を戻す」という構造が必要です。
日本語の「リベート」は、合法的な販売奨励金や割戻金にも使われることがあります。しかし、アメリカ英語で kickback と聞けば、まず不正な裏金や賄賂を疑います。ニュースで、「He received kickbacks.」と聞いたら、「謝礼を受け取った」という軽い話ではありません。「便宜を図った見返りに、裏で金を受け取った」という、かなり深刻な意味になります。
5. rip-off
意味
「ぼったくり」「法外に高い値段」「値段に見合わない商品やサービス」単に「高い」というより、「その値段を払う価値がない」「だまされたような気分になる」というニュアンスがあります。
由来
rip off は、もともと「無理やり引きはがす」「奪い取る」という意味の表現です。そこから、「人から金をだまし取る」「不当に高い金を取る」という意味でも使われるようになり、名詞の rip-off が生まれました。日本語で言えば、「金をむしり取られる」という感覚に近いでしょう。だから、単に値段が高いだけではなく、「この内容で、この値段?」と感じるようなものが a rip-off です。
例文
They want $900 for that used laptop? That’s a rip-off.
(あの中古ノートパソコンが900ドル? それはぼったくりだよ。)
I almost bought it, but then I realized it was a rip-off.
(買いそうになったけど、よく考えたらぼったくりだと気付いた。)
AmeriEigo的一言
この表現が一番しっくりくるのは、Facebook MarketplaceやCraigslistなどの個人売買を見ているときです。中古車、家具、家電、スマホなど、個人売買では基本的に出品者が自由に値段を付けます。
当然、「その値段、本気?」と思うような出品もあります。そんなときに、That’s a rip-off.がぴったりきます。オークションや転売でも同じです。人気商品だからと定価の何倍もの値段を付けていたり、たいして珍しくもない中古品を「レア物」のような値段で売っていたりする。こういうときの rip-off は、単なる expensive とは違います。
たとえば、空港のレストランが高いのは、みんなある程度分かっています。テーマパークの食べ物も同じです。「高いな」とは思っても、最初からある程度覚悟して買っています。もちろん、それに対して It’s a rip-off. と言うこともできます。でも私がこの言葉から連想するのは、むしろ個人売買などで、「知らない人だったら、この値段で買っちゃうかもしれないな」と思うようなケースです。expensive は値段の話。
rip-off は「その値段を取るのはおかしいだろう」という価値判断まで入っています。日本語の「ぼったくり」は、かなり近い表現だと思います。
6. bite the dust
意味
「倒れる」「ダメになる」「終わる」「失敗する」人だけでなく、会社、商品、機械、計画などがダメになったときにも使われます。
由来
この表現のイメージは非常に分かりやすく、戦いや争いで人が倒れ、顔が地面について「土を噛む」というものです。英語ではかなり古くから似た表現が見られ、後に bite the dust という形で広く使われるようになりました。そして、この表現を世界的に有名にしたものの一つが、QueenのAnother One Bites the Dustです。直訳すると、「また一人、土を噛む」ですが、実際の感覚としては、「また一人やられた」「また一つ消えた」くらいです。
例文
Another startup bit the dust after running out of funding.
(また一つスタートアップ企業が資金不足で倒れた。)
My old laptop finally bit the dust after ten years.
(10年間使った古いノートパソコンが、ついにダメになった。)
AmeriEigo的一言
こういうイディオムを覚えるときに、私が気をつけたほうがいいと思うのが、「意味が分かった=どんな場面でも自分で使える」ではないということです。たとえば bite the dust を、「失敗する」とだけ覚えたとします。すると日本人の感覚では、誰かがこれから試験や大事な仕事に挑戦するときに、Don’t bite the dust!と言いたくなるかもしれません。でも、これはかなり不自然です。「失敗するなよ」と言いたいなら、Don’t blow it!とか、Don’t screw it up!のほうが自然です。
bite the dust は、どちらかというと結果を見て、「ああ、ついにダメになったか」というときに使う表現です。長年使っていたパソコンが壊れた。会社が倒産した。お気に入りの商品がなくなった。そんなときに、It finally bit the dust.と言えます。
だから、「Bite the dustしないように頑張ってください!」と励ますのは、ちょっと違います。意味は推測できても、ネイティブがそう使うとは限らない。これはイディオムを覚えるときに結構大事なポイントだと思います。英語は日本語訳だけ覚えると、こういうズレが起きます。
7. break a leg
意味
「頑張って!」「成功を祈っているよ!」特に舞台、演奏会、オーディションなど、本番直前に使われる応援の言葉です。
由来
演劇の世界には昔から、Good luck!と本番前に言うと、かえって縁起が悪いという迷信があります。そこで、あえて正反対のBreak a leg!(脚を折れ!)と言うことで、幸運を願うようになったと言われています。ただし、この表現の正確な起源については複数の説があります。現在では由来そのものよりも、「舞台に立つ人へGood luckの代わりに言う表現」として定着しています。
例文
Break a leg! I’m sure you’ll do great.
(頑張って!きっとうまくいくよ。)
Everyone backstage was saying, “Break a leg!”
(舞台裏では、みんな「頑張って!」と声を掛け合っていた。)
AmeriEigo的一言
これは私にとって、教科書の中のイディオムではありません。家族がダンスの舞台に出演するので、実際に何度も耳にしてきた言葉です。本番前になると、先生も、出演者同士も、周りの人たちも、普通に、Break a leg!と言います。初めて聞けば、「脚を折れって、何それ?」と思います。でも舞台の世界では、誰もそんなことを考えていません。日本語の「頑張ってね」と同じくらい自然に出てきます。こういう言葉は、辞書でbreak a leg = 頑張ってと覚えるだけだと、いまひとつ実感が湧きません。でも実際に舞台の直前、出演者たちが緊張しているところで、Break a leg!と声を掛け合っているのを見ると、「ああ、本当に使うんだ」となります。英語を長く勉強していると、こういう瞬間が結構あります。教科書で先に知っていた英語が、何年も後になって実生活の中に突然現れる。私にとって break a leg は、まさにそういう表現です。
8. buy a lemon
意味
「欠陥品を買ってしまう」「ハズレの商品をつかまされる」特に車について使われることが多い表現です。
由来
20世紀初頭のアメリカでは、lemon が「期待外れのもの」「役に立たないもの」という意味のスラングとして使われるようになりました。そこから、特に故障や欠陥の多い車をa lemonと呼ぶようになりました。
この表現が単なるスラングで終わらなかったところも、アメリカらしいところです。アメリカには、重大な欠陥を抱えた新車などを購入した消費者を保護する、いわゆるLemon Lawがあります。州によって制度や条件は異なりますが、「lemon」という言葉そのものが法律の通称にまでなっています。
例文
I thought I was getting a great deal, but I bought a lemon.
(すごくお買い得だと思ったのに、ハズレの車を買ってしまった。)
I’m worried this used car might be a lemon.
(この中古車、ハズレなんじゃないかと心配だ。)
AmeriEigo的一言
私は基本的に、車は新車を買います。理由の一つが、I don’t want to buy a lemon.です。もちろん、新車だから絶対に故障しないわけではありません。実際、Lemon Lawの対象になるのは新車の重大な欠陥であることもあります。
それでも中古車の場合は、「前のオーナーがどう乗っていたのか」「なぜこの車を売ったのか」「ちゃんとメンテナンスしていたのか」という部分が、どうしても気になります。
アメリカでは中古車市場が非常に大きいので、「新車を買った瞬間に価値が下がる。それなら中古車のほうが合理的」という考え方も普通です。それはそれで分かります。ただ、私は一台買ったら長く乗るタイプです。数年ごとに中古車を買って乗り換えるより、最初から自分で選んだ新車を買って、メンテナンスしながら長く乗るほうが性に合っています。車にもだんだん愛着が湧きます。中古車を上手に乗り継ぐ人を否定するつもりはありません。ただ、私は車を単なる「移動手段」というより、長く付き合う道具だと思っています。だから新車を選びます。
そして、その背景にはやっぱり、I don’t want to end up with a lemon.(ハズレの車をつかみたくない。)という気持ちがあります。
日本ではレモンと聞けば、まず黄色い果物を思い浮かべます。でもアメリカで車の話をしていて、It’s a lemon.と言われたら、「レモン色の車」ではありません。「その車、ハズレだよ」という意味です。しかも Lemon Law という法律用語にまでなっている。こういうところを見ると、イディオムやスラングは単なる英語の暗記項目ではなく、アメリカ人の生活そのものから生まれているんだなと思います。
9. clear the air
意味
「誤解を解く」「気まずい空気を解消する」「言いたいことを話して、関係をすっきりさせる」という意味です。
由来
clear the air を直訳すると、「空気をきれいにする」。もともとは、嵐や雷雨のあとに空気がすっきりする、というイメージから来た表現です。そこから、何か言いたいことがある。誤解がある。二人の間に気まずい空気がある。そういう「重たいもの」を話し合って取り除く、という意味で使われるようになりました。
例文
I think we need to talk and clear the air.
(ちゃんと話をして、わだかまりをなくしたほうがいいと思う。)
We finally cleared the air after the meeting.
(会議のあと、ようやく話し合って誤解を解いた。)
AmeriEigo的一言
この表現は、アメリカ人のコミュニケーションの特徴が少し出ている気がします。日本語では、「空気を読む」と言います。でも英語では、clear the airです。読むのではなく、気まずいものや曖昧なものを取り除いてしまう。もちろん、アメリカ人が全員ストレートに話すわけではありません。何も言わずに根に持つ人もいるし、面倒な話を避ける人も普通にいます。それでも、We need to clear the air.という、「この変な空気を放置せず、一回話そう」という表現が普通に存在するのは面白いと思います。
私がさらに面白いと思ったのが、ダンスなどで使う cleaning です。新しい振り付けを習ったあと、ただ順番を覚えるだけではなく、タイミングを合わせる。腕の角度を揃える。余計な動きをなくす。全体をもっときれいに見せる。こういう仕上げの作業を cleaning と言ったり、動きを clean up すると言ったりします。もちろん、clear the air とダンスの cleaning が同じ語源というわけではありません。
でも、「曖昧なもの、乱れているもの、邪魔なものをそのままにしない」「clearする、cleanする」という発想には、どこか共通するものを感じます。日本語の「察する」。英語の「はっきりさせる」。言葉を見ていると、文化の違いが少し見える気がします。
10. get cold feet
意味
「直前になって怖気づく」「土壇場になって尻込みする」という意味です。
由来
この表現は、語源を調べると少し厄介です。よく、「怖くなると足が冷たくなるから」「足が冷えると動けなくなるから」と説明されます。確かに分かりやすい。でも、これが本当の語源だと断定できる証拠はありません。
19世紀にはすでに cold feet が、「勇気を失う」「計画から降りる」という意味で使われていました。さらに、それ以前のドイツ語圏の文学にも、カードゲームで負けた人物が「足が冷たい」と言ってゲームから降りる、似た表現が見つかっています。つまり、なぜ cold feet が「怖気づく」になったのかは、はっきり分からない。これが一番正確です。
イディオムの語源には、あとから作られた「いかにもそれっぽい話」も多いので、ここは無理に一つの説に決めないほうがいいと思います。
例文
He got cold feet right before the wedding.
(彼は結婚式の直前になって怖気づいた。)
I was ready to quit my job, but I got cold feet at the last minute.
(仕事を辞めるつもりだったけれど、土壇場になって怖くなった。)
AmeriEigo的一言
このイディオムの例文では、結婚式がよく出てきます。The groom got cold feet.新郎が結婚式直前になって、「本当に結婚していいのか?」と怖くなる。確かに分かりやすい例です。でも、結婚専用ではありません。会社を辞める。転職する。家を買う。引っ越す。大きな契約をする。こういう場面にも使えます。ポイントは、最初からやりたくなかったわけではないということです。やると決めた。準備もした。ところが、いざ現実になってきたら急に怖くなった。それが get cold feet です。だから単なる、I’m scared.とは少し違います。
それにしても、この表現の由来は面白い。英語学習の本では、イディオムの由来がきれいなストーリーとして紹介されることがあります。でも実際に調べると、「そこまで分かってないじゃん」というものも結構あります。由来を知るのは面白い。でも、面白い話ほど少し疑ったほうがいい。これも英語を長く見てきて感じることの一つです。
11. go against the grain
意味
「自分の性格や考え方に反する」「一般的な流れに逆らう」「普通とは逆のことをする」という意味です。
由来
ここでいう grain は、米や小麦の「穀物」ではありません。木材の 木目 です。木を削るとき、木目に沿って削れば比較的滑らかに進みます。ところが、木目に逆らって削ると抵抗が強くなり、表面も荒れやすくなります。そこから、go against the grain「木目に逆らう」が、「自然な流れに逆らう」「自分の性質に合わないことをする」という意味になりました。
例文
It goes against the grain for me to stay quiet when I think something is wrong.
(何かがおかしいと思っているのに黙っているのは、私の性に合わない。)
His decision went against the grain of conventional thinking.
(彼の決断は一般的な考え方に逆らうものだった。)
AmeriEigo的一言
これは単なる、I don’t like it.とは少し違います。「嫌い」というより、「それは自分の性に合わない」という感覚です。たとえば、It goes against the grain for me to pretend everything is fine.なら、「問題があるのに、何もないふりをするのは自分には合わない」という意味です。個人の性格だけでなく、世間の常識や業界の流れに逆らう場合にも使えます。
私はこの表現を見ると、英語学習の定番アドバイスも少し思い出します。みんなが、「単語帳をやれ」「毎日何時間やれ」「この教材をやれば話せる」と言っていても、自分の生活に合わなければ続きません。周りと違う方法を選ぶことが、必ずしも間違いではない。against the grain は「抵抗がある方向」という意味ですが、ときにはその方向へ進むしかないこともあります。
12. go south
意味
「状況が悪化する」「話がうまくいかなくなる」「ダメになる」という意味です。
由来
go south を直訳すれば、「南へ行く」。でもアメリカ英語では、Things went south.と言えば、「物事が悪い方向へ行った」という意味になります。では、なぜ「南」なのでしょう。
実は、この表現の正確な由来には諸説があり、一つに断定することはできません。よく説明されるのが、north = up、south = downという地図上の感覚です。私たちが普段見る地図では、基本的に北が上、南が下です。そして英語では、up と down にかなりはっきりしたイメージがあります。Sales are up.(売上が上がっている。)Sales are down.(売上が下がっている。)Things are looking up.(状況がよくなってきた。)I’m feeling down.(気分が落ち込んでいる。)つまり、up = 上昇・改善、down = 下降・悪化です。そこから、south → down → 悪い方向というイメージにつながった、という説明です。
また、古いアメリカ英語には go south を「逃げる」「姿を消す」という意味で使った例もあり、南のTexasやMexico方面へ逃げるイメージとの関係を指摘する説もあります。ただし、South=アメリカ南部=奴隷州だったから悪い意味になったという語源ではありません。少なくとも、そう断定できる根拠はありません。
例文
Everything was going fine until the deal went south.
(契約は順調だったが、途中から話がおかしくなった。)
The conversation went south pretty quickly.
(その会話は、かなり早い段階で険悪になった。)
That’s when things started to go south.
(そこから物事が悪い方向へ進み始めた。)
AmeriEigo的一言
私は go south という表現を見ると、少し不思議に思います。なぜ南なんでしょう。日本人にとって、南はそれほど悪い方角ではありません。むしろ、「南向きの家」「南向きの部屋」と言えば、日当たりがよく、かなりポジティブなイメージがあります。「南国」「南の島」も、暖かくて明るいイメージです。逆に日本で昔から警戒されてきた方角といえば、南ではなく北東の「鬼門」です。つまり日本人の感覚では、南=悪い方向とはなかなか結びつきません。
ところが英語では、up north、down southと言います。北は up。南は down。そして英語では、up は上昇や改善、down は下降や悪化と非常に結びつきやすい。そう考えると、Things went south.が、「物事が悪い方向へ行った」になるのも、少し分かる気がします。ただし、ここで注意したいのは、アメリカ人にとって北が絶対的に良い方角で、南が絶対的に悪い方角だ、という話ではないということです。
アメリカでも南には、暖かい、冬を過ごしやすい、バケーション、といったポジティブなイメージがあります。だから「南そのものが悪い」のではなく、地図では南が下にあるという感覚のほうが重要なのかもしれません。同じ地球を見ているのに、方角に乗せるイメージは言語や文化によって少し違う。イディオムを調べていると、単なる英語の意味から、こういう文化の違いまで見えてくるのが面白いところです。
13. good riddance
意味
「せいせいした」「いなくなってくれてよかった」「厄介払いできた」という意味です。
由来
riddance は、rid(取り除く) と関係する言葉です。つまり、「厄介なものを取り除くこと」という意味があります。good riddance はかなり古くから使われている表現で、「なくなってくれてよかった」「消えてくれてせいせいした」という意味になりました。
例文
He finally quit? Good riddance.
(彼、ついに辞めたの? せいせいしたよ。)
Good riddance to that old car. It was always breaking down.
(あの古い車がなくなってせいせいした。いつも故障していたから。)
AmeriEigo的一言
これは、意味を知らずに使うとかなり危ない表現です。good が入っているので、「よかったね」くらいに感じるかもしれません。でも全然違います。会社を辞める同僚に向かって、Good riddance!と言ったら、「いなくなってくれてせいせいするよ」です。送別会では使わないほうがいい。
逆に、本当に嫌だった人が辞めたあとで、Good riddance.と言えば、意味はぴったりです。人だけではありません。ずっと故障していた車。使いにくいシステム。面倒なルール。そういうものがなくなったときにも使えます。
Green Dayにも Good Riddance (Time of Your Life) という曲がありますが、この言葉自体には、もともとかなり皮肉っぽく、突き放す感じがあります。日本語なら、「やっといなくなった」「せいせいした」が近いでしょう。短い表現ですが、感情はかなり強めです。
14. last but not least
意味
「最後になったが、決して重要でないわけではない」「最後に紹介するが、同じように大切な」という意味です。
由来
この表現はかなり古く、16世紀の英語にもすでに似た形が見られます。Shakespeareの作品にも近い表現が登場します。least は、「最も重要でない」という意味です。つまり、last, but not leastは文字どおり、「順番としては最後。でも重要度が最下位という意味ではない」ということです。
例文
Last but not least, I’d like to thank my family.
(最後になりましたが、家族にも感謝したいと思います。)
And last but not least, we have Sarah from our New York office.
(そして最後になりましたが、ニューヨークオフィスのSarahです。)
AmeriEigo的一言
最初、この表現を見ると、「アメリカ人は重要なものを先に持ってくるから、最後の人に気を遣っているのかな」とも思えます。でも、そういう意味ではありません。英語でも、日本の「大トリ」のように、一番目立つものや重要なものを最後に持ってくることは普通にあります。Steve Jobsのプレゼンで有名になった、One more thing…も、まさにそうです。最後にもう一つ。そして、その「もう一つ」が大きな発表だったりする。
だから、last = leastではありません。last but not least は、「最後に紹介するけれど、重要度が低いわけではありません」というだけです。日本語の、「最後になりましたが……」にも近い。ただ、英語はわざわざ、not leastまで言います。「最後だから格下という意味ではないよ」と、そこまで言葉にする。このあたりは少し英語らしいなと思います。
15. live it up
意味
「思い切り楽しむ」「派手に遊ぶ」「贅沢して楽しむ」という意味です。単なる have fun よりも、「せっかくだから思い切り楽しもう」という感じがあります。
由来
この表現は20世紀前半のアメリカ英語で広まったとされています。live に up が加わることで、「普段より盛大に生きる」「思い切り楽しむ」という意味になりました。旅行、休暇、パーティー、臨時収入など、普段より少し羽目を外す場面によく合います。
例文
You’re in Vegas for the weekend. Live it up!
(週末ラスベガスにいるんだから、思い切り楽しみなよ。)
They lived it up on their vacation in Hawaii.
(彼らはハワイ旅行で思い切り楽しんだ。)
AmeriEigo的一言
live it up は、単なる、Enjoy!より少し派手です。たとえば、普段は節約している人が旅行に行く。久しぶりの休暇で少しいいホテルに泊まる。ボーナスが入って、ちょっといいレストランへ行く。そんなときに、Live it up!と言えます。「人生を楽しめ」という大げさな人生論ではありません。むしろ、「せっかくなんだから、今日は楽しんじゃえよ」くらいです。
ただし、live it up には少し、「お金を使う」「羽目を外す」「普段より派手に楽しむ」というニュアンスがあります。毎日静かに本を読んで幸せに暮らしている人を見て、He’s really living it up.とは普通あまり言いません。ラスベガス、旅行、パーティー、豪華な食事。そういう場面のほうが、この表現には似合います。
16. odd man out
意味
「仲間外れになっている人」「一人だけ違う人」「グループの中で浮いている人」という意味です。
由来
odd man out は、もともと人数や組み合わせの中で「余ってしまう一人」を指す表現です。ペアを作っていったとき、一人だけ残る。その人が odd man out です。そこから、「グループの中で一人だけ違う人」「周りと条件が違う人」という意味でも使われるようになりました。
現在では男性だけを指すわけではなく、女性についても使われることがあります。また、より性別を感じさせない odd one out という言い方もあります。
例文
Everyone else was married, so I felt like the odd man out.
(ほかのみんなは結婚していたので、自分だけ浮いているように感じた。)
I was the only person who didn’t drink, so I felt like the odd man out.
(お酒を飲まないのは私だけだったので、一人だけ浮いている感じがした。)
AmeriEigo的一言
アメリカで生活している日本人には、この感覚は分かりやすいと思います。自分だけ英語がネイティブではない。自分だけアメリカのスポーツの話が分からない。自分だけ子どものころに見ていたテレビ番組が違う。みんなが笑っているのに、「何が面白いんだ?」となる。別に誰かが意地悪をしているわけではありません。それでも、I felt like the odd man out.という瞬間はあります。ここが単なる lonely との違いです。
lonely は孤独を感じていること。odd man out は、「グループの中にはいる。でも、自分だけ何かが違う」という状態です。海外で長く暮らしていても、この感覚が完全になくなるわけではないと思います。英語が話せるようになっても、文化的な共通体験まで全部同じになるわけではないからです。
逆に言えば、アメリカ人が日本へ行けば、今度は彼らが the odd man out になることもある。言葉の問題だけではなく、「自分だけちょっと違う」という感覚をうまく表しているイディオムだと思います。
17. pull someone’s leg
意味
「からかう」「冗談でだます」という意味です。
由来
この表現の由来は、実ははっきりしていません。よく言われるのが、「昔、泥棒が人の足を引っかけて転ばせ、その隙に物を盗んだから」という説です。ただし、これは面白い話ではありますが、確実な語源だと断定できる証拠はありません。現在の pull someone’s leg に暴力的な意味はなく、I’m just pulling your leg.で、「からかっただけだよ」「冗談だよ」という軽い表現として使われます。
例文
Relax. I’m just pulling your leg.
(大丈夫。からかっただけだよ。)
Are you serious, or are you pulling my leg?
(本気で言ってるの? それともからかってるの?)
AmeriEigo的一言
この表現は普通の英語です。悪い言葉でもありません。でも、私は個人的にはあまり使いたいと思いません。pull someone’s legと聞くと、どうしても文字どおり「人の足を引っ張る」姿を想像してしまうからです。
歩いている人の足を本当に引っ張ったら危ない。下手をしたら大怪我します。もちろんネイティブは、そんなことを想像しながら使っているわけではありません。完全にイディオムです。それでも私は、I’m just kidding. I’m joking.のほうが好きです。
ここは英語学習で意外と大事だと思います。意味が分かる英語と、自分が使いたい英語は同じではありません。ネイティブが使うからといって、全部自分の口癖にする必要はない。人にはそれぞれ、合う言葉と合わない言葉があります。これは、私にとっては「意味は知っている。でも自分ではあまり使わない英語」の一つです。
18. rain on someone’s parade
意味
「人の楽しみに水を差す」「せっかくの気分を台無しにする」という意味です。
由来
これは比較的イメージしやすい表現です。楽しみにしていたパレード。ところが当日、雨が降ってしまった。せっかくの楽しいイベントが台無しになる。そこから、rain on someone’s paradeが、「人の楽しい気分に水を差す」という意味になりました。
例文
I don’t want to rain on your parade, but this plan has a serious problem.
(水を差したくはないけど、この計画には大きな問題があるよ。)
Don’t rain on my parade.
(私の楽しみに水を差さないで。)
AmeriEigo的一言
私はこの表現を最初に見たとき、少し違和感がありました。特に、I don’t want to rain on your parade.です。rain と聞くと、私の頭の中では「雨が降る」です。だから、I rain…となると、「私が雨を降らせる?」「私は神様なのか?」という変な感覚になる。もちろん、実際にはそういう意味ではありません。花に水をやることを、I rain on the flowers.とは普通言いません。I water the flowers.です。
つまり rain on someone’s parade は、一つの比喩として理解したほうがいい。「自分が雨になる」というより、自分の言動によって、相手の楽しいパレードに雨を降らせたような状態にしてしまう。そう考えると分かりやすくなります。
面白いのは、日本語にも、「水を差す」というかなり似た表現があることです。日本語では水。英語ではパレードに降る雨。同じようなことを言っているのに、頭の中に作る映像が少し違います。
19. sell someone short
意味
「人を過小評価する」「実力や価値を低く見る」という意味です。
由来
sell short は金融でも使われる表現です。いわゆる「空売り」で、価格が下がることを見込んで売る取引です。そこから sell someone short が、「その人の価値を実際より低く見る」「実力を過小評価する」という意味で使われるようになりました。
例文
Don’t sell yourself short. You’re better at this than you think.
(自分を過小評価しないで。自分が思っているよりできてるよ。)
They sold him short and underestimated what he could do.
(彼らは彼を過小評価して、能力を見誤った。)
AmeriEigo的一言
特によく使いやすいのが、Don’t sell yourself short.です。「自分を安売りするな」と直訳すると、ちょっと強い。でも実際には、「自分の能力を必要以上に低く見ないほうがいい」という感じです。
アメリカで仕事をしていると、控えめにしていれば誰かが自分の能力を察してくれる、とは限りません。もちろん、何でも大げさに言えばいいわけではない。でも、自分の経験や実績を自分で小さくしてしまうと、そのまま小さく評価されることもあります。日本語の「謙遜」とアメリカでの自己評価は、必ずしも同じようには機能しません。その違いを考えると、この表現は結構面白いと思います。
20. speak of the devil / speaking of which
意味
この二つは似て見えますが、実は同じ意味ではありません。speak of the devil は、「噂をすれば」です。話していた本人が、ちょうど現れたときなどに使います。
一方、speaking of which は、「そういえば」「その話で思い出したけど」という意味です。
由来
speak of the devil は、もともと、Speak of the devil and he will appear.という古いことわざから来ています。悪魔について話すと、本当に悪魔が現れる。昔は今よりずっと不吉な意味を持った表現でした。現代ではかなり軽いイディオムになっていて、Speak of the devil! We were just talking about you.と言っても、普通は本気でその人を悪魔だと言っているわけではありません。
一方の speaking of which は、speaking of…(〜と言えば)からできた普通の会話表現です。直前の話題を which で受けて、「その話で思い出したけど」と次の話につなげます。
例文
Speak of the devil! We were just talking about you.
(噂をすれば!ちょうどあなたの話をしてたんだよ。)
I need to call my dentist. Speaking of which, have you made your appointment yet?
(歯医者に電話しないと。そういえば、あなたはもう予約した?)
AmeriEigo的一言
私は speak of the devil の意味は知っていますが、自分では使いません。私は、人が現れたときに、その人を指して devil という言葉を使いたくないからです。もちろん、ネイティブが、Speak of the devil!と言ったからといって、「お前は悪魔だ」と本気で言っているわけではありません。イディオムだということも分かっています。それでも、私は使わない。その人がちょうど現れたなら、We were just talking about you!で十分です。
話題をつなげたいなら、Speaking of which…、Speaking of him…、Speaking of John…など、ほかの言い方もあります。Speaking of whom という言い方も文法的にはありますが、日常会話ではかなりフォーマルに聞こえます。
ここでも17番の pull someone’s leg と同じことを感じます。知っている英語と、自分が選ぶ英語は別です。英語を話せるようになるというのは、ネイティブの言葉遣いを全部コピーすることではありません。意味を理解した上で、「これは自分は使う」「これは自分は使わない」と選べるようになる。それも、自分の英語だと思います。
21. take a rain check
意味
「今回は見送る」「また今度にする」という意味です。
由来
これは19世紀のアメリカの野球から来た表現です。試合が雨で中止になったとき、観客に次回使える券が渡されました。それが rain check です。つまり、「今日はダメになった。でも、この券は次回使える」ということです。
そこから日常会話でも、Can I take a rain check?が、「今回はやめて、また今度でもいい?」という意味になりました。
例文
I’m too tired tonight. Can I take a rain check?
(今夜は疲れすぎてるから、また今度でもいい?)
I’ll take a rain check on dinner.
(夕食は今回は見送って、また今度にするよ。)
AmeriEigo的一言
これはアメリカらしい由来のイディオムです。野球から日常会話に入った。しかも、由来を知ると現在の意味がかなり分かりやすい。大事なのは、完全に断っているわけではないということです。No.ではなく、Not this time, but maybe next time.です。
ただし、何度誘っても毎回、I’ll take a rain check.だったら話は別です。言葉の上では「また今度」。でも人間関係では、「これは遠回しに断られているのでは?」と考えたほうがいい場合もあります。辞書の意味と、実際の人間関係の意味は同じとは限りません。
22. the apple of someone’s eye
意味
「とても大切な人」「目に入れても痛くないほどかわいい存在」という意味です。
由来
これは非常に古い表現です。昔の英語では、瞳孔のような目の中心部分を、丸い apple のようなものとして表現することがありました。目の中心にあって、傷つけたくない大切なもの。そこから、the apple of someone’s eyeが、「何よりも大切な人」「とても愛おしい存在」という意味になりました。古い英語や聖書にもつながる、とても長い歴史を持つ表現です。
例文
His granddaughter is the apple of his eye.
(彼にとって孫娘は、目に入れても痛くないほどかわいい存在だ。)
She has always been the apple of her father’s eye.
(彼女はずっと父親にとって、とても大切な存在だった。)
AmeriEigo的一言
私はこの表現がとても好きです。the apple of my eye文字だけ見ると、「私の目のリンゴ?」です。でも由来を知ると、とてもかわいらしい。目の中心にある、傷つけたくない大切なもの。そこから、「本当に大切な人」になる。なんとなく心がほっこりします。
日本語の、「目に入れても痛くない」にも少し似ています。言語も文化も違うのに、「目」を使って大切な人への愛情を表現するところも面白い。古いイディオムには、こういうきれいな表現も残っています。
23. a sight for sore eyes
意味
「見てほっとする人やもの」「会えて本当にうれしい人」という意味です。
由来
sore eyes は、疲れた目、痛む目。そこに、a sight「目に入ってくるもの」があります。つまり、疲れた目にとって、見ただけでうれしくなるような光景というイメージです。この表現につながる言い回しは18世紀にも見られ、現在の a sight for sore eyes という形も19世紀には使われています。
例文
After that long trip, you are a sight for sore eyes.
(長い旅のあとで君に会えて、本当にほっとしたよ。)
That hotel was a sight for sore eyes after driving all day.
(一日中運転したあとだったので、あのホテルが見えたときは本当にほっとした。)
AmeriEigo的一言
これも the apple of someone’s eye と同じように、「目」を使った古い表現です。でも意味は少し違います。the apple of my eye は、「とても大切で愛おしい存在」。a sight for sore eyes は、「見た瞬間、ほっとする。会えてうれしい」です。
私はこういう古い英語が好きです。今の英語だけを見ていると、sore eyesなんて、疲れ目の話にしか見えません。でも、You’re a sight for sore eyes.となると、急に人間らしい温かい言葉になる。英語のイディオムというと、「変な言い方を暗記するもの」と思いがちですが、昔から残っている表現の中には、こういうかわいらしいものもあります。
24. the devil is in the details
意味
「細部に落とし穴がある」「問題は細かいところに潜んでいる」という意味です。
由来
この表現には、God is in the details.という、よく知られた別の表現もあります。ただ、the devil is in the details では、大きな話はよさそうに見えていても、契約条件。例外。手数料。小さな文字。細かいルール。そういうところに問題が潜んでいる、という意味で devil が使われています。
つまり、The plan sounds great, but the devil is in the details.なら、「話はよさそうだけど、本当に怖いのは細かい条件だよ」ということです。
例文
The plan sounds great, but the devil is in the details.
(計画はよさそうだけど、問題は細かい部分にある。)
The contract looks simple, but the devil is in the details.
(契約書は簡単そうに見えるけれど、細かいところに落とし穴がある。)
AmeriEigo的一言
20番の speak of the devil は私は使いません。でも、The devil is in the details.には、私は同じ違和感を感じません。なぜなら、こちらは人をdevilと呼んでいるわけではないからです。契約書の細かい条件。保険の例外。携帯電話の料金。住宅ローン。病院の請求書。表ではよさそうに見えるのに、細かく読んでいくと、「え、こんな条件があったの?」となる。そういうところに潜んでいる悪意や厄介さを devil と呼ぶ。それなら私は意味が分かります。
逆に、God is in the details.という表現もありますが、私はこれも使いません。私にとって God は、そんなに簡単に比喩として口にする言葉ではないからです。ここでも結局、辞書に載っている意味と、自分がその言葉をどう感じるかは別なんだと思います。アメリカで長く英語を使っていても、自分の価値観まで英語に合わせる必要はありません。
25. go for broke
意味
「一か八か全部賭ける」「失う覚悟で全力を出す」という意味です。
由来
broke は、「お金がない」「無一文になった」という意味です。つまり go for broke は、「失敗したら無一文になるところまで行く」というイメージ。そこから、「すべてを賭けて挑戦する」という意味になりました。
そしてこの表現には、アメリカではもう一つ重要な歴史があります。第二次世界大戦中、日系アメリカ人を中心に編成された第442連隊戦闘団が、Go for Brokeをモットーとして使ったことで有名です。
例文
We only have one chance, so let’s go for broke.
(チャンスは一度しかない。全部賭けていこう。)
He went for broke and put everything into the business.
(彼は一か八かで、その事業にすべてを賭けた。)
AmeriEigo的一言
25個の最後を go for broke にしたのは、この表現にはアメリカの歴史まで入っているからです。単なる、Do your best.ではありません。失敗する可能性もある。失うものもある。それでも、「ここで全部出す」という言葉です。
しかも第二次世界大戦中、この言葉を掲げて戦った日系アメリカ人兵士たちがいました。当時、日系人はアメリカ国内で強制収容され、家族が収容所にいる兵士もいました。それでもアメリカ軍の兵士として戦った。その歴史を知ってから Go for Broke を見ると、単なる勢いのいいイディオムには見えません。英語の言葉の後ろには、ときどきこういう歴史があります。
なぜこの25個を選んだのか
英語のイディオムは、数え切れないほどあります。今回の25個は、「アメリカ人がよく使うイディオムTOP25」ではありません。よく耳にするものもあれば、それほど頻繁には聞かないものもあります。それでも選んだ理由は、意味だけでなく、その後ろにある話が面白いからです。パン屋が13個くれた話。肩に乗せた木片。木目。野球の雨天中止。レモン。南という方角。目の中のapple。そして、日系アメリカ人兵士たちの Go for Broke。意味だけ暗記していたら、こういう話は見えてきません。
そして今回25個を見ていて、もう一つ感じたことがあります。イディオムは、知っているからといって全部使う必要はない。私は pull someone’s leg の意味は分かります。でも自分なら、I’m just kidding.を使います。speak of the devil も分かります。でも私は、We were just talking about you!と言います。
英語を覚えるというと、「ネイティブがこう言うから、自分もこう言わなければ」となりがちです。でも、私はそうは思いません。20年以上アメリカで生活してきても、自分に合う英語と、合わない英語があります。意味は理解する。相手が言ったら分かる。でも、自分が使う言葉は自分で選ぶ。それでいいと思います。

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