なぜHam、Tuna、BLTは「定番」なのか
私は日本で育ったので、子供の頃からアメリカの「サンドイッチ文化」の中で生活してきたわけではありません。もちろん日本にもサンドイッチはあります。たまごサンド、ハムサンド、ツナサンドなどは昔から普通にありました。
でもアメリカに住んでいると、サンドイッチとの距離感が日本とはかなり違うことに気づきます。Turkey Sandwich、Ham Sandwich、BLT、Tuna Sandwich、Italian Sub、Meatball Sandwich、Philly Cheesesteak……。それぞれが単に「パンに好きなものを挟んだもの」ではなく、一つの料理として存在しています。
そしてアメリカ生活が長くなった今、私も時々、「今日はTuna Sandwichが食べたい」「BLTが食べたい」「Ham Sandwichにpickleを入れて食べたい」と思うことがあります。不思議なのは、「パンが食べたい」のではないことです。Tuna SandwichならTuna Sandwichそのものが食べたい。では、なぜなのでしょう。このアメリカのサンドイッチの「定番」を理解するのに、実はSubwayはとてもいい教材です。
Subwayは「何でも好きに挟む店」だけではない
Subwayといえば、「パンを選んで、肉を選んで、チーズを選んで、野菜を選んで、ソースを選ぶ」というイメージがあります。確かにその通りです。だから理論上はTunaにSweet Onion Teriyaki Sauceをかけてもいいし、BLTにチーズを追加してもいい。でも、ここで一つ疑問が出てきます。本当に何を組み合わせても同じようにおいしいのでしょうか。
サンドイッチには意外と「文法」があります。たとえば日本のおにぎりも自由です。鮭、梅、明太子、昆布、ツナマヨ。好きなものを入れればいい。だからといって鮭+梅+明太子+昆布+マヨネーズを全部入れれば、5倍おいしいおにぎりになるわけではありません。それぞれの定番には、それぞれ完成したバランスがあります。アメリカのサンドイッチも同じです。
まずBread。なぜArtisan Italianが基本なのか
Subwayではいろいろなパンを選べます。
代表的なのが、以下の種類です。
- Artisan Italian
- Hearty Multigrain
- Italian Herbs & Cheese
- Flatbread
ここで注目したいのがArtisan Italian。Ham、Turkey、BLT、Meatballなど、多くの基本的なサンドイッチに使われます。なぜもっと味のあるパンにしないのでしょう。理由の一つは、Artisan Italianがサンドイッチの白いキャンバスになれるからです。パン自体の味が強すぎないので、ham、turkey、bacon、cheese、tomato、sauceの味がきちんと分かります。
一方、Italian Herbs & Cheeseはパン自体にチーズやハーブの風味があります。もちろんおいしい。でもパンも料理の味に積極的に参加します。だから、「Italian Herbs & Cheeseの方が豪華だから、どんなサンドイッチにもこちらの方がおいしい」というわけではありません。これはサンドイッチを理解する最初のポイントです。味を増やせば増やすほど、おいしくなるわけではない。
Black Forest Ham ― American Deli Sandwichの基本形
Ham Sandwichは、日本人から見ると不思議なくらい普通です。Subwayの基本的な構成を見ると以下のように、とてもシンプルな組み合わせです。
Artisan Italian
+ Black Forest Ham
+ Provolone
+ Lettuce
+ Tomato
+ Onion
+ Mayo
でも分解すると、よくできています。
Hamは塩味と肉の旨味。
Provoloneは乳脂肪とチーズのコク。
Mayoは脂肪、水分、酸味。
Tomatoは酸味とジューシーさ。
Onionは辛味。
Lettuceは冷たさとcrunch。
そしてArtisan Italianが全部を受け止めます。つまり、Salt + Fat + Acid + Moisture + Sharpness + Crunch + Starchが揃っています。だから完成している。ここへSweet Onion Teriyaki Sauceを足すこともできます。でも「味が足りないから必要」というものではありません。むしろ甘辛いTeriyakiという新しい主役が突然入ってきます。
なぜHamにはProvoloneなのか
ここはチーズを知るとサンドイッチがさらに面白くなります。ProvoloneはAmerican cheeseほど「とろけるチーズ」方向ではなく、sharp cheddarほど味が強烈でもありません。Hamの塩気や肉の味を消さずに、「ちゃんとチーズが入っている」というコクを加えられます。だからdeli meatとの相性がいい。これはアメリカのスーパーでチーズを買う時にも役立つ知識です。「どのチーズが一番おいしいか」ではなく、「この肉には、チーズに何をしてほしいのか」と考えると選びやすくなります。
Oven-Roasted Turkey ― アメリカの「普通のランチ」
Turkey Sandwichは、アメリカの食文化を理解する上でかなり重要だと思います。基本は以下の構成
Artisan Italian
+ Oven-Roasted Turkey
+ Provolone
+ Lettuce
+ Tomato
+ Onion
+ Mayo
Ham Sandwichと非常によく似ています。これは偶然ではありません。HamとTurkeyは、どちらもAmerican deli sandwichの基本形だからです。ただしTurkeyはHamより淡白です。そのためProvoloneとMayoの存在がさらに重要になります。Turkeyだけを食べて、「なんでアメリカ人はこんな味の薄い肉をパンに挟むんだろう」と考えると分かりにくい。これはTurkey単体を味わう料理ではありません。Turkey + Cheese + Mayo + Fresh Vegetables + Breadを一口で食べる料理です。アメリカで子供の頃からサンドイッチを食べている人にとっては、ごく普通のランチ。派手ではないからこそ、何度でも食べられます。
Tuna ― 日本人にも理解しやすいサンドイッチ
Tuna Sandwichは、日本人にとって比較的入りやすいと思います。理由は簡単で、私たちはツナマヨを知っているからです。アメリカのTuna Saladも基本は、Tuna + Mayonnaiseです。これをパンと野菜と一緒に食べます。味覚としては、
Tunaの旨味
+ Mayoの脂肪と酸味
+ 野菜のcrunch
+ Bread
という完成形。
だから私はTuna SandwichにSweet Onion Teriyaki Sauceをかけようとはあまり思いません。もちろんSubwayなので、やりたければできます。そして、それがおいしいと思う人もいるでしょう。でも「Tuna Sandwichが食べたい」と思った時に欲しいのは、甘いTeriyaki味ではありません。あの冷たくて、クリーミーで、少し塩気があって、野菜がシャキッとする味。これなんです。
BLT ― Bacon、Lettuce、Tomatoだけで料理名になる理由
BLTはさらに面白い。
B = Bacon
L = Lettuce
T = Tomato
この3つだけで名前になっています。基本形は、
Artisan Italian
+ Bacon
+ Lettuce
+ Tomato
+ Mayo
チーズすら必須ではありません。最初は「チーズを入れた方がおいしいんじゃない?」と思ってしまいます。でも分解してみます。
BaconはFat + Salt + Smoke + Crunch
TomatoはAcid + Sweetness + Moisture
LettuceはCool + Crisp
MayoはCreaminess + Moisture
そしてBread。
全部揃っています。特にBaconがすでに脂と塩気の強い食材なので、必ずしもチーズを必要としません。Cheddarを追加すればおいしいかもしれません。でもそれはBLTに「欠けていたものを補った」というより、Cheesy BLTという別の方向へ動かしたと考えた方が分かりやすい。定番には「何を入れるか」だけでなく、何を入れないかにも理由があります。
Italian B.M.T. ― なぜMayoよりVinaigretteなのか
Italian系になると、またルールが変わります。Salami、Pepperoni、Hamなどのcured meatを組み合わせ、Provoloneを合わせる。この時点ですでにかなり脂と塩気があります。ここへさらにMayoで脂を増やすより、Vinaigretteの酸味が非常によく働きます。これはItalian subを理解する重要な原則です。
Fatty cured meats + Acidです。
Salamiを一口。Pepperoniの脂。Provolone。そこへvinegarの酸味が入ることで口の中がリセットされます。だからItalian sandwichではoil & vinegarが自然に感じられる。ソースは「好きなものをかける調味料」というだけではなく、サンドイッチ全体のバランスを取る役目をしています。
Meatball ― これはCold Deli Sandwichとは別世界
Meatball Sandwichになると設計が完全に変わります。基本は、
Italian Bread
+ Meatballs
+ Marinara
+ Provolone
+ Parmesan
そして温かくtoasted。
ここには大量のlettuceもMayoも必要ありません。なぜならMarinaraがすでに、Moisture + Acid + Tomato Flavorを持っているからです。さらにProvoloneが溶けて肉とソースをつなぎ、Parmesanが塩気と旨味を加えます。これはTurkey Sandwichの仲間というより、Hot Italian-American Sandwichです。「Subwayでは野菜をたくさん入れた方がお得」と考えてlettuceやcucumberを全部追加することもできます。でも料理として考えると、必ずしもそれが正解ではありません。
Sweet Onion Chicken Teriyaki ― 日本の照り焼きではなく、アメリカのTeriyaki Sandwich
これは日本人として非常に面白いサンドイッチです。Chicken Teriyakiと聞けば日本料理に聞こえます。でもSubwayのSweet Onion Chicken Teriyakiは、日本の照り焼きチキンをパンに入れただけというより、Teriyakiという味をアメリカのsandwich文化に取り込んだ料理と考えると分かりやすいと思います。
Chicken。
Sweet Onion Teriyaki Sauce。
野菜。
Bread。
そして組み合わせによってはAmerican cheese。
ここでProvoloneではなくAmerican cheeseが合うのも面白いところです。Teriyaki sauceにはすでに強い、Sweet + Salty + Savoryがあります。チーズまで強く主張する必要はありません。American cheeseは非常によく溶け、味の主張が比較的穏やかなので、creaminessを足す役として使えます。これはAmerican cheeseが「安いチーズ」だから使われる、というだけでは説明できない部分です。American cheeseにはAmerican cheeseが得意な料理があります。
Philly CheesesteakをSubwayで食べるのは邪道?
SubwayにはSteak Philly系のサンドイッチもあります。ではPhiladelphiaの名物であるPhilly CheesesteakをSubwayで注文するのは邪道なのでしょうか。私はそうは思いません。
ただし、「Philadelphiaの本場のCheesesteak」と「Subwayが作るSteak Philly」は別物と考えた方がいいでしょう。Cheesesteakの核になるのは以下の組み合わせ。
Thin-sliced Beef
+ Onion
+ Melty Cheese
+ Roll
チーズはAmerican、Provolone、Cheez Whizなどが使われます。Subwayではそこへpeppersやmayoなどが入り、Subwayらしいサンドイッチになります。でも、Steak + Onion/Peppers + Melty American Cheese + Warm Breadという方向性はきちんと残っています。だからSubway版は「偽物」というより、Philly Cheesesteakというアメリカ料理をSubway方式に翻訳したものと考えると面白いと思います。
Subwayのソースが多すぎて分からない
Subwayで困るのがこれです。Mayo、Mustard、Honey Mustard、Sweet Onion Teriyaki、Ranch、Chipotle、Vinaigrette、Garlic Aioli、Sriracha系……。
店員さんから次々に聞かれると、「Oh yeah、それも入れて」と言いたくなります。でも全部入れればもっとおいしくなる、というものではありません。私はむしろ、ソースの役割で考えると分かりやすいと思います。
Mayo系
Fat + Moisture + Creaminess
Turkey、Ham、BLTなど。
Mustard系
Acid + Sharpness
Hamやdeli meats。
Vinegar / Vinaigrette系
Acid
脂の多いItalian meatsをさっぱりさせる。
Sweet Onion Teriyaki
Sweet + Salty + Savory
Chicken Teriyakiの味そのものを作る。
Chipotle / Ranch / Aioli系
Creaminess + Strong Flavor
ChickenやSteakなどをもっと濃厚なmodern American sandwichにする。
つまり、「どのソースが一番おいしい?」ではなく、「このサンドイッチに何が必要?」と考える。そうすると選択肢が一気に減ります。
ではSalt、Pepper、Oil、Vinegarはなぜ追加するのか?
ここで私が長い間よく分かっていなかったことがあります。Black Forest Hamのようなサンドイッチがすでに完成しているなら、なぜさらにSalt、Pepper、Oil、Vinegarを追加するのでしょう。答えは、これらは新しい味を作るためというより、完成したサンドイッチを自分の好みに最後の5〜10%調整するSeasoningと考えると分かりやすいと思います。
たとえばBlack Forest Ham。
Ham + Provolone + Mayo + Lettuce + Tomato + Onion + Breadですでに完成しています。でも食べる人によっては、「TomatoとLettuceがたっぷりだから、もう少し塩気が欲しい」そこで少量のSalt。あるいは、「味は完成しているけれど、もう少し香りと刺激が欲しい」そこでBlack Pepper。
Ham、Turkey、Tuna、BLTなどにPepperを加えても、元のサンドイッチの方向性はほとんど変わりません。そして、「Ham + Cheese + Mayoがおいしいけれど、もう少しキレが欲しい」ならVinegar。Vinegarは新しい強烈な味を追加するというより、脂を切り、味の輪郭をはっきりさせます。Oil & Vinegarなら、Vinegarだけの鋭い酸味をOilが少しroundにしてくれます。
つまりSeasoningは、
Salt → 塩気を少し上げる
Pepper → 香りと刺激を加える
Vinegar → 酸味で脂を切る
Oil → 酸味を丸くし、口当たりを加える
という微調整です。
ただしSaltは何にでも必要なわけではありません。Ham、Bacon、Salami、Pepperoni、Cheese、Pickle。これらはすでに塩気を持っています。Ham + Provolone + Picklesなら、追加Saltは必要ないかもしれない。一方でTurkey + Lettuce + Tomatoがたっぷりなら、少量のSaltでTomatoまで含めて全体の味が締まることがあります。ここにもちゃんと理由があります。
「Seasoning」「Accent」「Sauce」は別物と考える
Subwayで迷ったら、追加するものを3段階に分けると分かりやすいと思います。
1. Seasoning ― 元のサンドイッチをほぼ変えない
Salt / Pepper / Vinegar / Oil
もう少し塩気。
もう少し香り。
もう少し酸味。
完成されたサンドイッチを微調整します。
2. Accent ― 元のサンドイッチを残しながら、自分の好みを足す
Pickles / Jalapeños / Banana Peppers / Olives
Ham SandwichはHam Sandwichのまま。でも、「私はもっと酸味とcrunchが欲しい」という個性を加えます。
3. Sauce ― サンドイッチの方向そのものを変える
Ranch / Chipotle / Garlic Aioli / Sweet Onion Teriyaki / Honey Mustard
これらは存在感が強い。TunaにSweet Onion Teriyakiを入れれば、単なる「微調整」ではありません。サンドイッチ自体の方向を変えます。この違いを知っていると、「Anything else?」と聞かれるたびに、「Oh yeah!」と言って全部追加する必要がなくなります。
Cold SandwichにはPickleが欲しい
これは完全に私の好みでもありますが、Ham、Turkey、Tunaのようなcold sandwichを食べると、私はpickleが欲しくなります。そして、これもちゃんと理由があります。
Pickleが持っているのは、Acid + Salt + Crunchです。
Ham + Cheese + Mayo + Breadだけだと、Salt + Fat + Starchに寄りやすい。そこへpickleを噛む。酸っぱい。カリッとする。口の中が一度リセットされます。そしてまたHamとCheeseを食べる。だからpickleは「野菜を一種類追加した」というより、sandwichを最後までおいしく食べるためのcontrastなんですね。
私ならBlack Forest Hamなら、Ham + Provolone + Lettuce + Tomato + Onion + Mayo + Pickles + Black Pepperくらいが非常に魅力的です。これはHam Sandwichを別料理にしているのではありません。完成されたHam Sandwichを、自分の好きなacid、crunch、pepper aromaの方向へ少し調整している。そう考えると、Subwayのカスタマイズがずっと理解しやすくなります。
そしてChipsとSodaが来る
ここまで来たら、私にはもう一つ欲しいものがあります。Potato Chips。そして、冷たいSoda。これが揃うと突然、「最高!」となる。なぜなのでしょう。
Sandwichの食感を考えてみると、
Bread → Soft
Turkey → Soft
Cheese → Soft
Mayo → Soft
Tomato → Soft
比較的柔らかいものが多い。そこへPotato Chips。CRUNCH!しかも塩っぱい。
Sandwichを食べる。Chipsをバリッ。またSandwich。そして肉、チーズ、Mayoの脂が口に残ったところで、冷たい炭酸を飲む。Cold + Sweet + Carbonationで口の中がまたリセットされる。そこでもう一口Sandwich。Cold sandwichなら途中でpickle。
Sandwich → Pickle → Chips → Soda → Sandwich
これはかなり完成された食事です。だからアメリカのdeliやsandwich shopで、sandwichの横にpickleがあり、chipsとdrinkを合わせる文化がこれほど定着しているのも分かる気がします。
サンドイッチは「具をたくさん入れた方が勝ち」ではなかった
日本でサンドイッチ文化の中で育っていない私には、Subwayは長い間、「好きな具を選んでパンに挟んでもらう店」という感覚がありました。でもアメリカ生活が長くなって、時々Tuna SandwichやHam Sandwich、BLTが無性に食べたくなるようになりました。今考えると、欲しくなっているのは「パン」ではありません。
Tunaなら、Cold + Creamy + Salty + Crunchy
BLTなら、Smoky + Salty + Fatty + Acidic + Crisp
Italianなら、Fatty + Salty + Spicy + Acidic
Meatballなら、Hot + Meaty + Tomato + Melted Cheese
それぞれ違う完成された味と食感があります。
だからTuna Sandwichが食べたい日に、「せっかくSubwayなんだからTeriyaki SauceもRanchもChipotleも入れよう」とは必ずしもならない。もちろんカスタマイズするのもSubwayの楽しみです。でも、定番には定番になった理由がある。Bread。Meat。Cheese。Vegetables。Sauce。Temperature。Texture。そこから、Seasoningで少し調整する。PickleなどのAccentで自分好みにする。そして本当に方向を変えたい時にはSauceを変える。さらに横にはPotato Chips。冷たいSoda。ここまで含めて考えると、アメリカのサンドイッチ文化が少し見えてきます。
そして私のように日本で育って、サンドイッチを毎日のランチとして食べてこなかった人でも、アメリカで長く生活していると、いつの間にか、「今日はTuna SandwichとChipsが食べたいな」と思う日が出てくる。もしかするとそれは、アメリカ生活の中で、この味と食感の組み合わせが、いつの間にか自分の中にも一つの「定番」として出来上がったということなのかもしれません。

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